- 「くり下がりのひき算に入った途端、指を折り始めてフリーズしてしまう…」
- 「『10からひいて、残りを足すのよ!』と何度教えても、泣き出してしまって進まない…」
小学校1年生の保護者の方から、もっとも多く寄せられるご相談のひとつです。
この記事では、そうなっている原因とその対策「ひかないひき算」について丁寧に解説します。
なぜ、学校の教え方(さくらんぼ計算など)だと子どもはパニックを起こすのか?
それはお子さんの理解力や根気が足りないからではありません。
原因は、子どもの脳の「ワーキングメモリ(一時的なメモ帳)」がパンクしているからです。
「従来のひき算」の脳への強い負荷
学校で習う一般的なひき算は、子どもに次の4ステップを脳内で処理させます。
例として「13 − 9」で説明します。
- 3 – 9は引けないことを確認する(拒絶・パニック感)
- 13を「10」と「3」に頭の中で分解して保持する
- 10から9を引いて「1」を導き出す
- さっき保持していた「3」を思い出して、1 + 3 = 4を計算する
大人にとっては簡単なことに見えます。
しかしワーキングメモリがまだ発達途上の子にとって、「覚えておく」「ひく」「足す」を同時に行うことは、とても負担が大きいことなのです。

その結果、脳がオーバーヒートを起こし、フリーズして「ひける方から、ひいて 5 – 3 = 2」という典型的な誤りを起こしたりします。
何度も練習すればできるのでは?
たしかに何度も繰り返しやれば「計算パターン」を丸暗記して、ある程度解けるようになります。
しかしワーキングメモリへの疲労はさほど変わりません。その先も特定のひき算でミスを起こします。ただただ「不快な記憶」だけが蓄積されます。
従来のひき算をやめてワーキングメモリの負荷がすくない「ひかないひき算」を身につけると先ほどの問題を回避できます。
「ひかないひき算」がもたらすもの

「ひけないのにひく」が消える
先ほど13-5の例で「ひける方からひいて 5 – 3 = 2 だから12」と答えるミスを紹介しました。
ひかないひき算では「13の中に5と8がある」という構造(量)が見えるため、このようなミスは起こり得なくなります。
指を折る「巻き戻し計算」もしなくていい
数え上げ(カウント)の手間が消えるため、指折りによるケアレスミスがなくなります。「パッと見て答えが出る」爽快感を味わえます。
高学年で差がつく「量のイメージ(基数性)」が身についていく
上の学年で登場するテープ図や線分図、割り算、さらには中学の文字式や関数。どれも算数が苦手な子にとって大きな壁になります。
数をひとつずつ数える習慣から抜けだし、頭の中に「ドットの形(全体と部分)」を捉えられると、そのような壁を乗り越えるのに不可欠な「状況を構造として直感的に捉える力」が育ちます。
「ひかないひき算」を身につけるための鉄則4
はじめは数の存在を数字に置き換えない。(●●●は「さん」と呼ぶ)
最初は「数字(記号)」を一切使いません。
「量(●●●)」と「記号(3)」と「音(さん)」を同時に処理させると混乱します。まずは「量=音」だけに絞り込んで脳のワーキングメモリを「数の構造の理解」に100%集中させます。
【親・先生が驚くポイント】
これは小さいお子さんがゾウの写真を見て、はじめに「ゾウ」と呼んだからといってすぐに「象」という文字を書き取らせませんよね。それと同じです。
数にかくれた数(仲間)に注目させる
数は数える動作(Counting)で生まれるのではなく、「かたまり」として存在するところからスタートします。

「● ● ● ● ● の中に● ●と● ● ●がある」という全体構造を認知に直接訴えます。
教材に視覚ノイズをいれない
プリント・教具は余計な装飾や文字を削り、見るべきポイントだけに集中させます。これで脳のメモリ消費を防ぎ、脳内へのイメージ定着(残像)を促します。
後に紹介する図式のドット教具はこのような簡素なものです。
スモールステップでゆっくり前進する
気持ちが焦って次のパターンへ進めがちですが、不完全な状態では概念の成長を妨げてしまいます。少しずつ進んでいきます。できなくなったら前のステップに戻る。これも前進です。
「ひかないひき算」のトレーニング【素過程】編

トレーニングはお子さんの状況に応じて変わります。ここではその一例を取り上げます。
1.ドット数を答える(0〜5)
『●●●』のドットカードを見て、自然に『さん』と答える練習です。

気をつけてもらいたいのは「0」です。

このような回答は珍しくありません。
枠にドットがない状態について、「0(ぜろ)」であることを伝えます。
【保護者・先生へのメッセージ】
学校の教科書には「れい」と書かれていることがありますが、図式(Zushiki)メソッドでは「ぜろ」と呼ぶことをおすすめします。
子どもにとって日常的に馴染みのある「ぜろ」という読み方は「0個=何もない(空っぽ)」というイメージが直感的に頭に入りやすいからです。
はじめはドット2〜5こで練習します。毎日2、3分ほど練習します。
次のステップ条件:カードを見せて【1秒以内】に言えるようになった。
2.ドット数にかくれたドット数を答える(1〜5)
「●●●●●の中に●●と●●●がある」という事実を確認します。
まずカードの「●●●」をみせて「いち(1)となにが隠れている?」と質問します。口頭で「に」と答えられたら正解。

ここで気をつけてほしいのは補数「ゼロ(0)」です。

「ない」は「ゼロ」です。イメージができていれば自然にわかります。
これは1〜5までの組み合わせは6通りです。
毎日2、3分ほど練習します。
次のステップ条件:2〜3回、全問即答できた
3.ドットカードなしで数の構成を口頭で答える(1〜5)
ドットカードを見せずに「さん(3)の中に、に(1)と何が隠れていますか?」と尋ねます。

「2」と回答したら必ず「ドット」を見せて「正解!」「惜しい!」と告げます。これができれば、数の構成イメージができた証拠です。

次のステップ条件:2〜3日間、全問ノーミスで即答できた。
4.ドット数を答える(6〜10)
まず「●●●●●の下の枠に●がある。これは何でしょうか?」と質問をして「ろく」であることを確認します。
ここからドットをみせて、同じ要領で「7→10→9→8」と続きます。
指で数えそうになったらカードを隠し、『数えないでパッと見てごらん!』とゲーム感覚でやります。
次のステップ条件:1〜10まで自然に回答できるようになった。
5.ドット数にかくれたドット数を答える(6〜10)
(7)をみせて「2となにが隠れている?」と質問します。

口頭で「ご」と答えられたら正解。これは組合せが20通りあります。難易度を3つに分けてスモールステップで練習します。
レベル1(低負荷)

補数5がでてくる組み合わせは9パターンあります。

レベル2(中負荷)

補数5を分けない組合せは20パターンあります。

レベル3(高負荷)
補数5を分ける組合せです。6パターンだけです。


【保護者・先生へ:安心のワンポイント】 この補数5を崩すパターンが難しいです。 お子さん自身でカードをよく観察して、どのようにドットを分けるのかを考えるといいでしょう。
次のステップ条件:1〜10まで自然に回答できるようになった。
6.数にかくれた数を答える(1〜10)
1〜10までドットカードを使って実施します。
次のステップ条件:2〜3日間、カードを見せて【80%ほど】【1秒以内】で言えるようになった。
7.数の構成を口頭で答える(1〜10)
ドットカードを見せずに「はち(8)の中に、さん(3)と何が隠れていますか?」と尋ねます。
「ご」と回答したら必ず「ドット」を見せて「正解!」「惜しい!」と告げます。
次のステップ条件:カードを見せて【80%ほど】【1秒以内】で言えるようになった。
これで10の構成は卒業です。
8.ひき算の意味を理解する(2〜10)
ここからいよいよ「ひき算のフォーム」へと移行します。
気をつけてほしいのは、くれぐれも「ひく」と言わないことです。
「7の中に2と何が隠れてる?」と質問します。

「ご」と答えたらウォーミングアップおわりです。①へ移ります。
① 構造の確認(1〜2問)
8→3と□

「8の中に3と5がある」と言って「8→3と5」と書きます。脳を中身の探索モードにします。
② 記号の架け橋(2〜3問)

「ひき算の『−』は、8の中に3となにがある?という意味だよ」と読み替えを伝えます。
解きながら「8のなかに、3と5」という感じで読み替えます。スムーズに読み替えができたら次です。
③ 学校形式への移行(メイン)

『−』だけの式で解いていきます。「8の中に3と5」と声に出しながら解きます。
次のステップ条件:10以下のひき算で「8のなかに3と…5」とイメージが確認できる。
「ひかないひき算」のトレーニング【2けた】編
1.繰り下がりのないひき算(11〜18)
ドットカードで導入
まず 「15の中に 3となにがある?」 と問いかけてから、ドット15のカードを見せます。

3は右フレームの5の中にあります。その3を囲めば、隠れた「12」が見つかります。ここは数問だけ扱います。
実際の数の式へ
この計算練習も3〜4問でいいです。
- 18 – 2
- 16 – 5
- 14 – 4
2.繰り下がりのあるひき算(11〜18)
ドットカードで導入
いよいよ、学校でいう「繰り下がりのひき算」です。
まず「12の中に5と何がある?」と言って、ドットカード(12)を見せます。

すると先ほどの右フレーム(一の位)に5はありません。左フレーム(十の位)には10ドットのなかに5が隠れてます。

左フレームの5と右フレームの2を合わせて「7」となります。
これが12 – 5 = 7です。
この要領で右フレームにないとき、左フレームから探して、2つの数を合わせるのです。
実際の計算へ
繰り下がりの計算は、はじめ声を出して解いた方がいいでしょう。

子ども:「5の相棒は5!(左の10を見る)」
子ども:「5 と 2 で 7!(右の2と合体)」
練習問題は以下のような配列をお勧めします。
レベル1(はじめの一歩)
相棒が「1」や「2」など、最後の足し算が超かんたんな問題

<練習問題>
13-9,14-5,11-8,15-8,16-9
レベル2(慣れてきたら)
ゾロ目やイメージしやすいキリの良い問題

<練習問題>18-9,11-6,
レベル3(仕上げ)
相棒とあまりを足すと5を超える、ほんの少し頭を使う問題

13-7,14-7,13-6,
もしレベル3で手が止まったら、無理をせず前のレベルや「素過程(パート1)」に戻ってみてください。
終了条件:ひき算が全問正解を連続2回。
おわりに
「ひかないひき算」のトレーニング、本当にお疲れ様でした。
くり下がりのひき算で「できない…」と傷ついていたお子さんが、「パッと見て解ける」喜びにいたったなら、親(先生)としてこれほど嬉しいことはないでしょう。
導入でお伝えした通り、指でひとつずつ数える「順序数」から、一瞬で量として捉える「基数(かたまり)」へと脳の認識をシフトできたことは、計り知れない価値があります。
これは大袈裟ではなく、お子さんの今後の算数・数学の未来をよい方向へ変えたと思って間違いありません。
最後に、今後の学習に向けた大切なポイントを2点お伝えします。
従来のやり方への「揺り戻し」が起きたとき
お子さんは今、「ひかないひき算」という新しい構造認識を獲得しました。
しかし今後、学校や塾などで「10からひきましょう」というか従来のやり方を求められたり、疲れている時にふと指を折る「指数え」に戻ってしまうことがあります。
その時は焦らず、ぜひ「素過程(パート1)」のドットトレーニングに数日だけ戻ってみてください。
一度マスターした感覚は脳に残っているため、以前よりも遥かにスムーズに再習得できます。
今後の課題(3桁・4桁のひき算について)
本メソッドは、お子さんが最初につまずく「1桁〜2桁の繰り下がり(素過程)」におけるワーキングメモリの負荷を最小化することに特化して設計されています。
3桁や4桁といった多桁のひき算については、筆算の手順や繰り下がりの連鎖が関わってくるため、より最適な指導アプローチを現在検証・構築している段階です。
まずは最も重要な「2桁までの繰り下がり」で、「ひき算ってこんなにカンタンなんだ!」という自信と揺るぎない「量のイメージ」を育んであげてください。
その成功体験こそが、今後の算数・数学全体を力強く支える最高の土台になります。
