昼下がりの喫茶店で算数の授業をした日々のこと

都心のとある喫茶店。昼下がりスーツ姿のビジネスマンたちが難しい顔でコーヒーをすする中、ぼくと小学生は算数のお勉強。ちょっと変わった風景?でもそんな授業もいいじゃないかな。



昼下がりの喫茶店で算数の授業をした日々のこと

コーヒーの薫り
「娘は元気に登校していますよ。」
山手線で移動中に、そんな連絡を頂きました。
昨年までお世話になっていた親御さん。
“それがほんと一番嬉しいですよね。”
そう返信したぼくの脳裏に
その子との勉強風景と、
濃いコーヒーの薫りが思い出されました。
それは思い返せば思い返すほど、
楽しい授業でした。
場所はオフィス街の喫茶店
ふかふかの絨毯。
キリッとした制服姿のウエイターさん。
小さなノートパソコンを広げて、
商談に勤しむ日本のビジネスマンたち。
そこは喫茶店というより、仕事場でした。
そんな中、
その雰囲気に馴染まない2人、
テーブル席にすわる。
一人はごく普通の小学生の女の子。
もう一人はその場の大人たちと
対照的なポロシャツ姿の男。30代。
2人は、和気あいあいと問題を解いては、
ストローでジュースをすすり、
ときどき周りを観察してコソコソ話し、
そして再び問題を解く。その繰返し。
これがこの子とぼくの授業でした。
ここで授業をした理由
この時間に?この場所で?
と思われるかもしれません。
理由はちゃんとあるんです。
その当時この子は、
学校折り合いがつかず不登校でした。
また自宅は授業をするのに不都合とのこと。
そこで親御さんと話し合って、
喫茶店のテーブルで授業となったのです。
はじめ…できるかなぁ?とぼくも不安でしたね。
いろいろ工夫を重ね、
テーブルは狭かったので教材やノートを最小化。
親御さんが子どもを送り迎え
(しばらくすると本人が一人で行き帰り)。
いやいや気になるのは、そこじゃないですね。
「周りからの厳しい視線はなかったのか?」
でしょう。
ぼくは授業に集中していたので、
それは分かりませんが(←どうもアヤシイ)、
子ども自身は感じていませんでした。
もしかしたらお客さんの中には、
奇妙に感じた方もいるかもしれませんね。
でも、少なからずお店の人は温かく迎えてくれました。
指定された曜日と時刻の僕らのアポイントメントを知ってか、
ぼくが来店すると
「あちらに座っていらっしゃいますよ」
と案内までしてくれたので。
毎回、お客の風景が変わるので、
子ども自身も楽しかったみたいです。
そうそう、こんなことがありました。
先生と遭遇?!
勉強中、子どもが急にソワソワしだしたのです。
「どうしたの?」
「先生、あのね。
 向こうの奥に座っている男の人。
 昨年まで非常勤で来ていた先生だよ。」
「へぇ。そうなんだ。」
あまりに気にしているので、
「大丈夫、ばれないよ。
 バレて何か言われたら、ぼくが説明するから。
 安心して。」
と言いました。
しばらくするとその元非常勤の先生は、
バックからPS2(携帯用ゲーム機)を取り出して、
なんと遊びはじめたのです。
それがほんと無我夢中。
その風景に子どもが唖然…。そして
「あれなら、絶対に気づかないね。」
と自分の経験則をもとに判断し、
安心して勉強を始めました。
ぼくは何だか複雑な気分でしたけれど。
最後に
そんな授業を経た2月。
この子は私立中学受験をしました。
もともと地元の中学に行きたくないという希望で、
受験勉強の依頼だったのです。
試験当日。
「全然できなかった…」
といいながらも合格。
もっている子だな…と思っていましたが、
本当にもっていました。
その時の流れってあるんですね。
あぁあの濃いコーヒーが飲みたくなりました。
こんど、近くに寄ったら行こうとおもいます。
ひょっとすると勉強している小学生とか、
いるかもしれませんね。