息子と発達支援施設へ行った日のこと

いつもと同じ足どりで、と言えば嘘になる。でも想像していたよりも重くはない。言葉の発達で気になる息子を連れて、言語聴覚士さんに診てもらうために発達支援施設を訪ねました。

「ほら、おとうさん。アリンコがいるよ。」

ほんと嬉しそうにぼくに報告する息子ナオ。指差した向こうには一匹のアリがヨタリヨタリと歩いていました。

「大きいアリだなぁ。」
「ほら、あっちにも!」

ナオは注意深くタイルの上のアリをさがしはじめました。
朝9時まえ。発達支援の面接の約束時刻には、まだ時間がありました。そこでぼくとナオはその施設近くの公園で少し時間をつぶし。アリンコを追いかけている訳です。このアリンコを追いかけるまでの経緯を簡単に説明します。

診断の理由は「不安の解消」

わが夫婦がナオの言葉に不安を感じ始めたのが数日前でした。いや、薄々ぞれぞれがナオの幼さを感じていたのです。勇気を出して話し合い、ぼくが相談窓口に連絡して、言語聴覚士さんに面接をお願いしました。

そして一番の近々のスケジュールで面接の約束を頂きその日がきた、という訳です。

これで何かが解決するものではない、というのはもちろん承知の上。ただ第三者に見てもらった上で、なにか心のモヤモヤが、スッキリすればいいかなぁと期待しました。

診断によって新たな不安が生まれたら?も考えました。でもそれは仕方ないことと腹をくくりました。

「よし、そろそろ行くぞ。」

ぼくはいつもより強い調子でナオに声をかけました。あれ、ナオの顔は少し硬直気味。中腰でお尻を両手で抑えていました。

「おっお父さん…うっ◯…ち」

うわぁ〜といいながら急いで施設へ駆けこみました。(到着してはじめの一声は「トイレを貸して下さい!」でした…)

はじめての面接

そんなひと悶着のあとでしたが、面接は和やかなムードの中で始まりました。言語聴覚士の先生は女性の方。絵本を見せて、これは何?と優しく語りかけてくれました。

先生「これは?」ナオ「キリン」。このようなメジャーな名詞の質問には瞬間的に答えられました。よしよし。しかしいくつかの動物が描かれたイラストを見せられて

「鼻が長い動物はどれかな?」

先生が尋ねられると目がキョトン。うぅそろそろ来たか…。ナオは苦し紛れなのか、ぼくヘリコプター好き!と話題を変える始末。おーい、コミュニケーションになっていないぞ。

そんな感じでナオの面接時間(…というか授業に近い)45分はやっと終わりました。ぼくの教え子との2時間授業よりもずっと長く感じました。

診断の結果

さて、そんな感じで進んだ言語診断の結果は、ぼくとヨメのヨミ通りでした。ナオは1才程度の言葉の遅れがあるとのこと。

それを直接聞いたとき、辛いとか、ガッカリとか、そういうのはなく『やっぱりそうだよなぁ』と納得しました。4才、5才ともなると大人と変わらない程度のコミュニケーションができることを、ぼくも毎朝の保育園の送りで目の当りにしていたからです。

言語療法士の先生からは、コミュニケーションの機会(絵本の読み聞かせが良い)をたくさん作って下さい。いろんなものに触れる機会をつくって下さい。とご助言を頂きました。そして発達の経過を見ることを含めて、改めて5月に面接のお約束も頂きました。

帰り道で考えた

1時間半の面接を終えて、ぼくらが施設の外へ出ると、入れ替わりで門に入って行く親子を見かけました。不安いっぱいの親もいれば、明るく楽しそうな親もいました。

今のぼくの顔はどっちかな。そんなことを思って、ナオに目を向けると上着のファスナーを締めながら「これ、むずかしいねぇ」とブツブツ零していました。まったく親の心配もつゆ知らず。

「よし、今から、保育園に行くぞ。」

余計な心配を振り切りたくてぼくは少し明るく声をかけました。ナオはうれしそうに走り出し、そして言伝を思い出したかのようにぼくの方をふり返りました。そして大声で一言。

「ぼく、おとうさん、大好きだよ!」

ほんと急に。
こっちは恥ずかしいやら、そして嬉しいやら。ニコッ。
照れながら、ありがとう、お父さんもナオが好きだぞ、ぼくが言葉を返すと屈託のない笑顔を浮かべてまたナオは駆出していきした。うーん、やっぱり思い直しました。

心配ばかりかけさせるけれど、ぼくには出来すぎた息子だな…って。